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立田山に生息する哺乳類

 熊本市のほぼ中央に位置する立田山において、2006から2012年にかけて、自動撮影カメラ法、わな法、聞き取り法により哺乳類相の調査を行った。過去の記録を含め、7目20種の哺乳類の生息記録が得られたが、うち4種については最近数十年間の記録がなく現状は不明であった。現在の立田山は、都市のなかに島状に残る小面積の森林としては豊かな哺乳類相を擁していることが明らかとなった。

過去の記録を含め、少なくとも7目20種の哺乳類の生息記録が立田山実験林およびその周辺から得られた。ただし、これらのなかには、近年、生息が確認されていない種を含んでいる。

自動撮影法では8種が撮影された。その内訳は、齧歯目アカネズミ属、兎目ニホンノウサギ、食肉目タヌキ、イヌ、イエネコ、イタチ属、ニホンテンおよびニホンアナグマであった(図−1〜6)。イヌとイエネコは首輪をつけていることがあり、飼育個体と考えられた。イタチ属は、体サイズから判断してチョウセンイタチの可能性が高いと考えられた。九州本土において、イヌ、イエネコおよびチョウセンイタチは外来種である。

わな法では、齧歯目アカネズミのみが捕獲された。捕獲実績はないが、トガリネズミ目コウベモグラのものとみられる塚や坑道は調査地内の各所にあるため、本種を確認種に含めた。

聞き取り法では、トガリネズミ目ニホンジネズミ、コウベモグラ、翼手目キクガシラコウモリ、アブラコウモリ、霊長目ニホンザル、齧歯目カヤネズミ、ムササビ、兎目ニホンノウサギ、食肉目アカギツネ、タヌキ、イエネコ、イタチ属、ニホンアナグマの生息情報が得られた。カヤネズミは、2009年、五高の森周辺の湿地において巣が確認されている。ニホンアナグマは、支所構内から2011年夏に初めて目撃情報が寄せられ、2012年春以降は昼間にも頻繁に目撃されるようになったことから、定住しているものと考えられるが、生息頭数や分布の広がりは不明である。一方、ニホンザルは2006年1月4日、2007年2月28日、2008年10月2日に目撃されたが、群れではなく、単独個体であったことから、移動途中の個体が目撃されたものと考えられた。

過去の文献資料によると、立田山から、トガリネズミ目ヒミズ、翼手目ノレンコウモリ、ユビナガコウモリが報告されている(吉倉 1974, 1984, 1988)。これら3種に上のニホンジネズミを加えた4種については、最近数十年間以上にわたり確実な生息記録がない。また、アンケート調査により、立田山周辺から、既出の翼手目、ニホンザル、ネズミ科、ムササビ、ニホンノウサギ、アカギツネ、タヌキ、イヌ、イエネコ、イタチ属に加えて、偶蹄目イノシシの生息情報が得られている(歌岡ほか 1996)が、おそらく非定住個体であろう。

以上の20種のほかに、生息の可能性はあるが未確認の種として外来のネズミ類3種が挙げられる。人家周辺に生息するドブネズミ、クマネズミ、ハツカネズミは立田山周辺に生息する可能性が高い。しかし、これらの種はいずれも生息が未確認であるため、本研究の結果には含めなかった。 熊本県、大分県、宮崎県の3県からなる中九州からは7目52種(在来種39種、外来種13種)の哺乳類の生息の記録がある(安田 2011)。このうち3種(オオカミ、ツキノワグマ、カワウソ)は、3県のレッドリストにおいて絶滅あるいは野生絶滅とされており、26種は国あるいは県レベルのレッドリストにおいて何らかのカテゴリーに区分されている。本研究によって明らかとなった立田山の哺乳類相は、絶滅種を除いた中九州の哺乳類相の41%(20/49種)を占めるが、このうち5種は熊本県のレッドデータブックの掲載種であり、保全上重要である。すなわち、ノレンコウモリは絶滅危惧IB類、カヤネズミとムササビは準絶滅危惧、ユビナガコウモリとニホンアナグマは要注目種とされている。ただし、上記のコウモリ類2種は数十年以上前に防空壕跡で発見されたものであり、防空壕跡は安全性の面からしばしば工事によって出入口が塞がれることがあるため、種の現状は不明である。コウモリ相については情報が不足しており、今後の調査によって明らかにする必要がある。

哺乳類相に占める外来種の比率は、中九州の27%(13/49種)に対して、立田山では15%(3/20種)であったが、上記の未確認の外来ネズミ類3種を含めた場合には26%(6/23種)であった。分布が確認された外来種3種はすべて食肉目であり、捕食者として在来の野生生物の脅威となる可能性がある。

本研究により、現在の立田山は、都市のなかに島状に残る小面積の森林としては比較的良好な哺乳類相を擁していることが明らかとなった。しかし、長期的にみると、立田山の哺乳類相は生息環境の変化にともなって大きく変化してきたと考えられる。記録によれば、戦中から戦後の森林の伐採と農耕地への転換によって、1950年代の立田山は、細川家の菩提寺として長く保護されてきた泰勝寺跡(現在の立田自然公園)に残された古い森林と大正期に植えられたヒノキ林を除き、ほぼ全体がススキやササ類に低木が混じった草原的な環境に改変された(河原畑 1978)。この頃、森林性の哺乳類の多くは立田山に生息していなかったか、あるいは限られた面積の森林に少数が生息するにすぎなかっただろう。すなわち、現在の立田山の哺乳類相は、その後の森林再生にともなって新たに成立してきたものと言える。今後、継続的な生物相のモニタリングとともに、森林生態系の適切な保全活動が必要と考えられる。

写真−1 ニホンノウサギ
 写真−2 タヌキ
写真−3 イエネコ  写真−4 イタチ属
 写真−5 ニホンテン 写真−6 ニホンアナグマ 

 

研究の方法について

 熊本市のほぼ中央に位置する立田山(北緯32.83度、東経130.73度、標高151.7 m、南北2.5 km、東西2.0 km)において、2006から2012年にかけて、森林総合研究所九州支所立田山実験林とその周辺の二次林に生息する哺乳類を自動撮影カメラ法、わな法、聞き取り法により調査した。自動撮影カメラ法では、主にSensorCamera Fieldnote DC1000((有)麻里府商事、山口)を使用し、生の殻つき落花生やクラッカー、果実等を誘引餌に用いた。わな法では、金属製の箱わな(縦90 mm、横70 mm、奥行290 mm)を使用し、オートミール、生の甘藷、生の殻つき落花生を餌に用いた。わなの内側の底には60 mm×60 mmの板状のプラスチック製断熱材を敷き、捕獲された動物の保温を図った。聞き取り法では、森林総合研究所九州支所職員ならびに一般市民から目撃情報を収集した。立田山自然探検隊益田勝行氏には長年の貴重な調査結果を寄せていただいた。さらに、過去の生息記録についての文献資料を収集した。

分類と和名はThe Wild Mammals of Japan(Ohdachi et al. 2009)に準じた。種の判別が困難な場合には属以上のレベルで整理した。種の保全状態については、改訂・熊本県保護上重要な野生動植物―レッドデータブックくまもと2009を参照した。


引用文献

歌岡宏信・松岡秀樹・坂本真理子・坂田拓司・長尾圭祐・平川朝子・北田 薫・中冨尚士. 1996. 熊本市に生息する野生動物の分布. −熊本市における野生動物の都市定住化に関するアンケート基礎調査より−. 熊本野生動物研究会誌 2: 49-57.
河原畑 勇. 1978. 立田山南斜面の鳥類(1949-1957). 熊本生物研究誌 11: 1-13.
Ohdachi, S. D., Ishibashi, Y., Iwasa, M. A., and Saitoh, T. 2009. The Wild Mammals of Japan. Shoukadoh, Kyoto, 544pp.
安田雅俊. 2011. 中九州の哺乳類相の特徴. 九州森林研究 64: 26-29.
吉倉 真. 1974. 北向山鳥獣調査報告. 白川ダム建設が北向山天然林に及ぼす影響の調査(最終報告)(熊本県自然保護課, 編), pp.1-45. 熊本県自然保護課, 熊本.
吉倉 真. 1984. 熊本の陸生哺乳動物. (1)研究史と陸生哺乳動物目録. 土龍 11: 27-55.
吉倉 真. 1988. 熊本の陸生哺乳動物. (2)分布と実態. 土龍 13: 100-117