オニフスベ・ホコリタケの話

 オニフスベには、ヤブダマの方言があるように、深山幽谷よりは家の裏の薮に発生することが多い。子実体は白い球形で直径が二十〜三十pと大きい。四十pを超える物も珍しくない。異様なきのこのためか、問い合わせが多いきのこの一つである。

 こういう変わったきのこは、昔から知られていたようで、江戸時代は馬勃と呼ばれていた。また馬勃とは、オニフスベに限らず、近縁のホコリタケ目の菌もさしていた。本草綱目啓蒙には、馬勃の和名・方言としてオニフスベ、ヤブダマ、ヤブタマゴ、イシワタ、イシノワタ(伊予)、ウマノクソダケ、ウマノホコリダケ、ホコリダケ、チホコリ(佐渡)、ミミツブシ、(讃岐)、ツンボダケ、キツネノハイブクロ(若狭)、メツブシ、キツネノチャブクロ(大和)、チトメ、キツネノヒキチャ(伊勢)、キツネビ(南部)、キツネノハイダワラ(越前)、カザブクロ(陸奥)、・・・と多くの名前があることを紹介し、「五六月に路傍の陰地、あるいは林中に忽然と土上に生じる。根は無く紫褐色。初めは小さく円くて馬糞のようだが、一日たたない内に大きな塊となる。毬のようで西瓜のようでもある。持ち上げると、とても軽い。割ってみると綿のような物がつまっている。叩くと粉が多くでる。」と記述している。

 和漢三才図会では、「馬勃は園内、竹林、荒野に生える。大きさは、鳥の卵くらいである。薄皮があって灰白色、肉は白く、とてもショウロに似ている。煮て食べると味は淡く甘い。老熟したものは、はなはだ大形で、死者の首に似て醜い。その皮は裂け易い。中は煤黒色で柔らかく綿のようで粉が出る。止血にとても効能がある。」とあり、ホコリタケ類の特徴を端的に表現している。また、昔から食べる人はいたようだ。 中国の明の時代の本草綱目によると、「馬勃」とは馬の屁の意味だという。きのこを蹴ったり踏んだりすると、胞子がボッ(勃)と出る様子を屁に例えるのは面白い。

 漢方薬にも利用された。通常の漢方薬は原料の薬種を薬研で粉末にするが、馬勃の場合は、きのこをそのまま布で裏ごしすれば粉になる。喉の痛み、声が出ない症状、咳に効くという。また魚の骨が喉に刺さった時は、馬勃を蜜で丸めて飲み込むと良い。その他、皮膚病にも効くらしい。

 オニフスベは、地球上に広く分布する。ただし地域によって別の種に分かれている。ヨーロッパ、北米、中国、ジャワ、オーストラリア、ニュージーランドに広く分布する種Langermania gigantea (Batsch: Pers.) Rostkoviusは、ジャイアント・プフ・ボール(巨大なほこり玉)と呼ばれる。この巨大なきのこは人目につきやすいので、ハンディーなきのこ図鑑にも必ず登場する。私もモンゴルの草原で採集した。モンゴルではありふれたきのこらしい。ただし食べないとのこと。外観は日本のオニフスベと大差ないが、胞子の表面の刺があまり無く、外皮がはげ落ちにくい。故小林義雄博士は、オニフスベは、アフリカ、インドに分布するLanopila wahlbergii Fr. に近縁であると発表した。また彼は、北半球に分布するL. gigantea が日本に分布する可能性が高く、オニフスベと呼んでいる中に混じっているのではないかと指摘している。もし事実だとすると、日本での両種の住み分けなど興味がつきない。