猪苓について

猪苓は、チョレイマイタケの菌核である。不規則な形をしていて、表面は黒く、動物の糞に似ている。猪苓とは、「猪の糞」を意味する。この菌は木材を白色腐朽する。子実体は菌核から発生し、複雑に枝分かれした柄の先にへそ状にくぼんだ傘がつく。材から直接発生することもある。サルノコシカケ科には、この他にブクリョウ、タマチョレイタケなどが菌核を形成する。分類学的には、マイタケ属またはタマチョレイタケ属に所属させることが多いが、チョレイマイタケ属として独立させることもある。

本草綱目の著者である明の李時珍は、「猪苓は木の余気が結したもので、松の余気が茯苓を結するような関係のものである。他の木にいずれもありうるが、楓樹が多いだけである。」と述べていて、菌の一種とは思わなかったようだ。

 猪苓は、きのことしては珍しい部類に入る。特に地下の菌核は、探しにくい。そのため、江戸時代中期の和漢三才図会では、「猪苓と雷丸の二物は、まだ実物を知らない。猪苓は、広東、南京、福州から舶載されて、毎年一二千斤を輸入している。価格は安い。だから中国や外国には産して、珍しい物ではないのだろう。」と記している。

 その後、日本でも見つかるようになったようで、江戸時代後期の本草綱目啓蒙には、「舶来が多い。茎葉は無く、ただ根のみが土中に生じる。形は猪の糞に似ている。だから名づけられた。軽く、外皮は黒色だが赤身を帯びるものもあるり、内部は白色。今は国産の物も多い。丹州および諸州から出る。すべて山中あるいは河堤の土を掘って採り出すという。土上に出る物は稀である。だから、どの木から発生するか詳しいことはわからない。根塊ははば一二寸、長さ二三寸、凹凸が多い。」とある。

猪苓は、漢方薬として有名であり、二世紀頃の神農本草経には、「味は甘くて平である。□瘧(マラリア)。毒蠱□(腹の虫の病?)、不祥を解し、水の道を利する。久しく服用すれば身を軽くし、老に耐える。」とある。その他の漢方薬の文献には、「傷寒(腸チフス)、温疫の大熱を解し、汗を発し、腫脹、満腹急痛に主効がある」、「渇を治し、湿を除き、心中の懊悩を去る」、「膀胱を瀉す」、「□理を開き、淋腫、脚気、白濁、帯下、妊娠子淋、胎腫、小便不利を治す」の効用が書かれている。漢方薬としては、茯苓などと配合することが普通で、五苓散、猪苓湯などが知られている。

 近年の分析では、有効成分は明かではないが、利尿、解熱、健胃整腸に効く。また水溶性多糖が、抗腫瘍性が認められている。そして、現在でも漢方薬として中国から輸入している。中国では、黒龍江から雲南までの各地のカンバ属、ナラ属、カエデ属、ヤナギ属、シナノキ属の林に発生する。  木材腐朽菌であるから、栽培も可能である。中国では、カンバ、ナラ、カエデ、ヤナギの林内に穴を掘って、種菌を埋めておくと、3年後に猪苓の菌核ができるという。また、より確実には、これらの樹種の原木に菌を培養した後に埋めて、覆土することにより、菌核を収穫できるらしい。

 ところで、子実体(中国では「猪苓花」と呼ぶ)は、食べた人によると、味噌汁に入れると歯切れがよく、非常に美味しいきのこらしい。今後は、食用きのことしての利用も良いかもしれない。