きのこの英語(三)
champignon(またはchampinion)は、フランス語のchampignon(綴りは同じ)から来ている。この単語は、もとはラテン語のcampinionem が変化したものである。語源としては、campus(平原)から派生したものとされる。フランス語のchampignonが、きのこ全体をさすことから、英語に導入された当初は特定のきのこをさす単語ではなかった。しかし18世紀頃から栽培きのこのツクリタケをさすように変わった。その後フェアリー・リングを作るシバフタケに対して呼ぶこともある。
morelもフランス語起源である。しかし、さらにその語源は、チュートン語(中部ヨーロッパに住んでいたゲルマン人の言葉)の morhilaにさかのぼるという。このアミガサタケをさす単語は17世紀頃から使われているが、意味の変化はない。アミガサタケはヨーロッパでは、有名かつ普通の食用きのこである。ところで1884年版のブリタニカ百科事典には、「この美味しい食用きのこのアミガサタケは、ブリテン島には、一般に思われている以上に、ごく普通に発生する。」と記されている。どうも有名な食用きのことされる割には、実際に採集して食べる人は多くはなかったかもしれない。
polyporeは、ラテン語のpolyporus、さらにギリシャ語のpokÊ(多い)+p¾qo|(穴)が語源である。文字どおり多孔菌(サルノコシカケ類)を意味する。どちらかというと、20世紀になってから使われるようになった学術的な単語で、一般的にはbracket-fungus(張出したきのこ)と呼ぶようだ。
puff-ball は直訳すれば「ほこり玉」であり、ホコリタケのなかまをさす。puffもballも、ゲルマン系の単語であり、合成語のpuff-ball も17世紀頃から登場する。 stink-hornは、「悪臭のする角」で、スッポンタケのなかまをさす。この単語もゲルマン系だが、一般の用例は少なく、18世紀から登場する。
truffle はトリュフをさし、今世紀になってからは、トリュフ形のチョコレート菓子の別名でもある。フランス語のtruffeが語源である。ラテン語のtuber が変化したとされるが、確かではない。同じ語源のtartuffoというイタリア語の単語は、芋を意味する。どちらも地下にできる。 英語には、どうしてフランス語(多くはラテン語由来)の単語が多く入り込んでいるのだろうか。イギリスにはもともとゲルマン系の人達が住んでいて、ゲルマン系の言葉を話していた。ところが1066年にノルマン人(フランス)に征服され、それ以後の支配階級はフランス語を専ら使うようになる。このため本来ゲルマン系の英語にラテン系の単語が入り込む結果になった。
agaric, boletus, champignon, fungus,morel, mushroom, polypore, truffleはラテン語またはフランス語由来だが、toad-stool, puff-ball, stink-hornなどは、イギリス古来のゲルマン系の単語である。このように単語を並べてみると、食用きのこをさす単語はラテン系で、食用にならないきのこはイギリス古来の単語が多い。またきのこを意味するラテン系の単語は豊富だが、イギリス古来の単語は少ない。ひょっとすると、きのこを食べる風習というのは、11世紀以降に大陸からやってきた人達によって持ち込まれたものかもしれない。