コウタケの話

 コウタケ(革茸)は、シシタケ(鹿茸)とも呼ばれ、香りの良いきのことして知られている。マツの混じった広葉樹林に発生するとされているが、筆者はマツの無いニュージーランドのナンキョクブナのなかまの林でも見ている。

 独特の芳香からか、古来から知られていたようだ。徒然草にも「鹿茸を鼻にあててかぐべからず、ちひさき虫ありて鼻より入て、脳をはむといへり。」と記されている。確かにコウタケには虫が多い。兼好法師もきのこ狩りが好きだったのかもしれない。

 和漢三才図会には、「案ずるに革茸は、山麓で落葉をかぶって発生する。形状は松茸に似て傘の外側は黒くて粒皺がある。晒し乾すとまさに黒くなって染革のようである。裏は黄赤で毛糸のようなものがある。柄には鱗甲がある。山城(京都)の北山、摂州の有馬の山中に多く出る。味は微かに苦く、灰汁を用いてゆがいて酢に和えて食べる。味は甘く脆美である。しかし腐敗し易い。それで晒し乾して売る。最も上等品である。」とあり、江戸時代には、乾燥品として売られていたようだ。産地としては、他に伯耆の大山、近江の園城寺山、安芸の高田郡および佐西郡が有名だったようだ。

 本朝食鑑には、鹿茸の名前で、「シシタケとよむ。革茸。俗にカワタケと呼ぶ。皮革を染めたものに似ている。生の時は赤黒色で、春の末に鹿の背毛、脚毛が赤黒色になったもののようだ。だから鹿茸と名づけられた。これは鹿角の茸(鹿茸は漢方薬)ではない。この茸は菌である。鹿菌は原野・湿土に生える。松茸、初茸が生えるように、木の葉をかぶって生える。上に小傘があって、高い茎は肥大、羅列して、相依り、榎茸、平茸が並んで生えるようだ。その色は赤黄、外に毛や鱗がある。晒乾すと、黒く変色するが、蛮国の羅紗を細かく裁断したようになる。江東・海西の各地に存する。近俗では、乾茸の形状は肉■蓉(オニク、ハマウツボ科の寄生植物、漢方の強壮薬)に似ており、性(薬効)もやはりこれに類するといっている。(中略) 陳臓器は、上に毛があり、下に紋のないもの、仰巻き、赤色をしたものは、いずれも有毒であると言っている。この茸は毛があり、赤色であり、有毒とすべきもののようである。ただわが国では、常に食べても、中毒しないし、また病を治するという例もまだ聞かない。しかるに、気味、甘平、無毒というのは、いったい正しいのであろうか、それとも間違いというべきなのであろうか。」とある。陳臓器の毒きのこの特徴とは、当時の本草学の教科書とも言うべき本草綱目(李時珍)の中で引用されている。「教科書によると、毒きのこだけど、実際には食べられている」というので、本朝食鑑の著者は悩んでいる。

 江戸時代には、食療本草という、日常の食物によって医療をおこなう研究のジャンルがあった。一般の人にも理解し易くするために和歌の形式で著述したものがいくつかある。食物和歌本草という書物の中には、コウタケについての和歌が二首載っている。

 「革茸は微寒に辛く虫の毒 

   癖(かたまり)あらば深くいむべし」

 「革茸のなまなは諸病の毒なれど

   ほしたるはまた少し用いる」

いずれも、コウタケを食べることに消極的で、一度頭にこびりついた迷信が根深いことを感じさせる。