>>  Home  >>  九州の森と林業 >> 第107号 平成26年3月1日発行
森林総合研究所九州支所 定期刊行物 九州の森と林業

九州・山口・沖縄の栽培シイタケを加害する
キノコバエ類

森林動物研究グループ 末吉 昌宏

1.はじめに

 スーパーの青果コーナーに行くと季節を問わずシイタケが並んでいます。栽培技術の向上により、その生産量が近年急増していますが、同時に害虫による被害も多く報告されるようになりました。例えば、キノコバエ類はシイタケそのものを食べたり、パックの中に幼虫が混じったりすることが知られています。しかし、その防除方法は未だ十分に確立されていません。
 私たちの食卓にあがるシイタケは、その栽培方法の違いによって、原木シイタケと菌床シイタケに分けられます。原木栽培では、クヌギやコナラなどシイタケが好む樹木を乾燥させてシイタケの菌を植え付けた丸太(ほだ木)を森林内などに置き、シイタケを発生させます。菌床栽培では、おがくずなどをシイタケの菌糸で固めたブロックをハウスなどの屋内で管理し、シイタケを発生させます。菌床は原木に比べて小さく軽く、扱いやすいため、最近では菌床栽培が広く普及しています。シイタケの害虫となるキノコバエ類は、これら原木栽培と菌床栽培の間で種類と被害の様相が大きく異なります。

2.原木シイタケを加害するキノコバエ

 原木栽培の害虫として、ナカモンナミキノコバエ(以下ナカモン)(図-1a)、フタモントンボキノコバエ(以下フタモントンボ)(図 -1b)、シイタケトンボキノコバエ(以下シイタケトンボ)(図-1c)が知られています。ナカモンとシイタケトンボは北海道から九州まで広く分布し、フタモントンボは関東から九州までの各地で知られています。全国的に、ナカモンはフタモントンボとシイタケトンボよりも普通に見られます。これらの幼虫はシイタケに潜り込んで、孔を開けたり変色させたりする被害を及ぼします(図-2a)。九州では、3月から6月まで、または10月から12月まで幼虫が見られます)。山口・九州ではフタモントンボとシイタケトンボによる被害事例が少ないですが、他の地域では年によって被害が大きくなることが知られています。

図-1  シイタケを加害するキノコバエ類。a)ナカモンナミキノコバエ(体長約5㎜)、b)フタモントンボキノコバエ(体長約3-4㎜)、c)シイタケトンボキノコバエ(体長約4㎜)、d)ナガマドキノコバエ類の1種(体長約7㎜)、e)ヨコヤマクシバキノコバエ(体長約3-6㎜)、f)ヤマトケヅメカ(体長約3㎜)。
図-1 シイタケを加害するキノコバエ類。a)ナカモンナミキノコバエ(体長約5㎜)、b)フタモントンボキノコバエ(体長約3-4㎜)、c)シイタケトンボキノコバエ(体長約4㎜)、d)ナガマドキノコバエ類の1種(体長約7㎜)、e)ヨコヤマクシバキノコバエ(体長約3-6㎜)、f)ヤマトケヅメカ(体長約3㎜)。

3.菌床シイタケを加害するキノコバエ

 菌床栽培の害虫としてナガマドキノコバエ類(以下ナガマド)(図-1d)とヨコヤマクシバキノコバエ(以下ヨコヤマクシバ)(図-1e)が知られています。ナガマドは北海道から沖縄まで広く分布しています。山口・九州では2000年代から、沖縄ではシイタケ栽培が始まったごく最近から被害が報告されるようになりました2,3)。ナガマドは、ハウス内を温暖にしていれば一年中発生し、特に、6月から9月にかけて数が増えて被害が大きくなります)。近年の研究により、その種類が地域によって異なることが分かりました。たとえば、山口・九州のナガマドと沖縄のナガマドを外見で区別することは困難ですが、種類が異なります。ヨコヤマクシバによる被害は、これまで山口県で知られているのみです)。これらの幼虫はシイタケそのものを食べることはありません。しかし、シイタケの傘の内側や襞に幼虫が付着して(図-2b)市場に出回ったり、糸を吐いて菌床表面をクモの巣状に覆ったりする(図-2c)ため、その除去に多大な手間が必要となる上に、出荷そのものができなくなるなどの被害が生じます。
 その他、ヤマトケヅメカ(図-1f)(図-2d)も害虫として知られています。この幼虫が菌床の中に棲みつき、菌床をかじるため、菌床が弱る可能性があることが指摘されています)。現在は群馬県で発生が知られるのみですが、野外では九州にも分布しているため、九州地域でも今後の警戒が必要となります。

図-2 害虫キノコバエ類による被害状況。 a)ナカモンナミキノコバエの幼虫が穿孔したシイタケの傘断面、b)ナガマドキノコバエ幼虫が付着したシイタケの裏面、c)ヨコヤマクシバキノコバエが吐いた糸に覆われたシイタケ(写真:杉本博之氏提供)、d)ヤマトケヅメカの蛹殻が突き出た菌床の表面(写真:北島博氏提供)
図-2 害虫キノコバエ類による被害状況。 a)ナカモンナミキノコバエの幼虫が穿孔したシイタケの傘断面、b)ナガマドキノコバエ幼虫が付着したシイタケの裏面、c)ヨコヤマクシバキノコバエが吐いた糸に覆われたシイタケ(写真:杉本博之氏提供)、d)ヤマトケヅメカの蛹殻が突き出た菌床の表面(写真:北島博氏提供)

4.防除に向けて

 キノコバエ類の発生が確認された場合、現在はそれらを捕獲するなどして対処していますが、それだけでこれらの害虫を根本的に駆除することは難しい状況です。今後、これらキノコバエ類を効果的に防除するためには、発生予察、予防、発生後の速やかな回復に関する技術開発が必要です。今のところ、シイタケ害虫の防除に化学薬品のような農薬を使うことができません。また、原木栽培、特に森林内での栽培は、キノコバエ類の本来の生息地で行われることから、栽培環境の管理が困難です。これに対して、人工ホダ場や菌床ハウスは人工的な環境であるため、管理が容易かもしれませんが、その栽培環境が閉鎖的で年中適度な気温と湿度が保たれるため、一度生じた被害が甚大になる可能性があります。キノコバエによる被害は、その栽培方法と害虫の種類によって様相が大きく異なります。特に、ナガマドのように地域によって種類が異なれば、地域ごとに有効な対策を講じる必要があります。環境に配慮しつつ、栽培方法、地域の違いに対応した防除方法の開発が課題となります。


参考文献

1) 村上康明(2007)九州森林研究 60:13-17.
2) 北島博他(2011)森林防疫 60:19-27.
3) 伊藤俊輔(2013)九州森林研究 66:120-122.
4) 杉本博之・末吉昌宏(2011)森林防疫 60:188-192.
5) 末吉昌宏・北島博(2011)森林総合研究所研究報告 10:99-101.


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