>>  Home  >>  九州の森と林業 >>第77号 平成18年9月1日発行
森林総合研究所九州支所 定期刊行物 九州の森と林業

害虫シリーズ(20)

ハンノキキクイムシ

写真−1 ハンノキキクイムシのメス成虫
左:背面 右:側面
 
 写真−2 スギの間伐材に穿孔したハンノキキクイムシのフラス。
(木屑と糞が線香のように排出される。)

 キクイムシ類の和名にも、他の森林昆虫と同様に樹木の名前が付いたものが多く見られます。九州でも見られるヒバノキクイムシ・トドマツノキクイムシ・カシノナガキクイムシなどは、和名の由来になっている植物と密接な関係があります。一方でシイノコキクイムシ・カナクギノキキクイムシ・トドマツオオキクイムシなどは、その和名の示す植物以外にも多くの植物をエサ等として利用し、それほど密接な関係はありません。ここで紹介するハンノキキクイムシも名前に“ハンノキ”とついてはいますが、ハンノキだけを利用するわけではありません。

 ハンノキキクイムシの雌成虫は、新しい寄生樹に穿孔すると、体の一部にある菌嚢(マイカンギア)という器官から、共生菌(アンブロシア菌)を孔道内壁に植え付け、卵から孵化した幼虫は、ここから繁殖した共生菌をエサとします。このような生態を養菌性と呼んでいます。

 養菌性のキクイムシ類は、一般的に多くの樹種を利用することができるのですが、ハンノキキクイムシはその中でもとりわけたくさんの樹種に穿孔・繁殖が可能であり、ほとんど全ての広葉樹のほか、スギやマツなどの針葉樹も利用できます。また、孔道周辺の材は、持ち込まれた菌によって変色してしまうことから、本種は生丸太の害虫として最も注意が必要なものの1つです。

 寄生樹としては、多くは枯死したり伐採された材を利用しますが、他の病虫害や気象害、被圧などによって衰弱した生立木を加害してこれを枯死させることもあります。さらには茶樹の根部に穿孔してこれを枯らしたり、一見健全に見える生立木に穿孔することもあるので、注意が必要です。

森林動物研究グループ  後藤 秀章 


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