![]() |
|
>> Home >> 九州の森と林業 >> 第63号 平成15年3月1日発行 | |
![]() |
|
森林総合研究所九州支所 定期刊行物 九州の森と林業 |
![]() |
きのこシリーズ(18)オニフスベ![]() 秋になると新聞社からきのこについての問い合わせの電話がきます。「大きな白いボールのようなきのこが発生したが、珍しいものでしょうか?」という質問に、すぐにオニフスベだと分かりますが、新聞に載せるほど珍しいわけではありません。このきのこは、球形で直径が20〜50pと大きく、しかも忽然と現れるので、いつも話題になります。藪の中に転がりこんで拾い忘れたバレーボールのように見えますが、ある時、頭蓋骨に間違えられ、大騒ぎになったこともありました。 オニフスベを割ってみると、白く薄い皮の中は綿屑状で、胞子がつまっています。成熟すると表皮が破れ、中の褐色の胞子が、埃が舞い散るように、風で四方に飛ぶ仕組みになっています。まだ未熟のうちは、白いパンのような肉質で、はんぺんや麩のようでもあり、食べることもできます。 このきのこは、土壌中の有機質を分解して栄養にします。そして近縁でより小型のノウタケ、ホコリタケなどと共に、生態系では重要な役割をしています。土壌中にカビ状の本体が伸びていて、夏から秋になると地上に大きなきのこを作ります。 実は昔から知られていて、馬勃の名前で漢方薬としても利用されました。江戸時代の本草学の本では、オニフスベ、ヤブダマ、ヤブタマゴ、イシワタ、イシノワタ(伊予)、ウマノクソダケ、ウマノホコリダケ、ホコリダケ、チホコリ(佐渡)、ミミツブシ(讃岐)、ツンボダケ、キツネノハイブクロ(若狭)、メツブシ、キツネノチャブクロ(大和)、チトメ、キツネノヒキチャ(伊勢)、キツネビ(南部)、キツネノハイダワラ(越前)、カザブクロ(陸奥)、などの方言を紹介し、「毬のようで西瓜のようでもある。持ち上げると、とても軽い。割ってみると綿のような物がつまっている。叩くと粉が多く出る。」と記しています。 ところで、この大きなきのこに胞子が何個入っているのでしょうか? とても数えられないのですが、少なく見積もっても数百億はありそうです。こんなにたくさんの胞子を作っても、それが発芽して、土壌中で生育し、次代の大きなきのこを作ることができるものは、ごく僅かです。とてつもない無駄なのか?自然界の厳しさなのか? 果たしてどちらなのでしょう。 森林微生物管理研究グループ長 根田 仁 |
独立行政法人 森林総合研究所九州支所 |