>>  Home  >>  九州の森と林業 >> 第63号 平成15年3月1日発行
森林総合研究所九州支所 定期刊行物 九州の森と林業

平成14年の九州地域の森林虫獣害発生状況

森林動物研究グループ長 伊藤 賢介
生物被害担当チーム長 小泉  透

 森林や樹木に対する昆虫や獣類の加害に適切に対処するには、どんな昆虫や獣類がいつ、どこで、どれくらいの被害を起こしたのかを監視して、その記録を残しておく必要があります。こうした被害のほとんどは一時的・局所的なものにとどまりますが、時には広い範囲に拡大して各地で激しい被害を引き起こすこともあります。過去の記録に基づいて被害の激しさや拡大範囲を予測することができれば、被害が深刻化する前に防除の必要性を判断して対策を講じる有力な手がかりとなります。

 森林総合研究所では、このような林木被害の早期警戒システムの完成をめざして、全国の被害発生情報の収集を続けています。各都道府県の林業試験研究機関、国有林の各森林管理署や日本樹木医会などの協力を仰いで、病虫獣害の発生情報をデータベースとして蓄積しています。情報収集の手段として、従来のハガキ形式の「森林病虫獣害調査票」に加えて、平成13年度からインターネット上に「森林病虫獣害データベース」を開設しています。このホームページでは、被害発見者がただちに発生情報をデータベースに登録することが常時可能です。調査票による情報もこのデータベースに逐次登録しています。こうして収集した情報を本誌や「森林防疫」誌に公表していきます。平成14年に寄せられた情報件数は前年に較べて大幅に減少していますので、一層の御協力をお願いします。

 平成14(2002)年に登録された九州地域の虫害情報を表−1にまとめてあります。6種6件の登録情報がありました。注目される情報として、鹿児島県霧島町の天然林で発生したミズナラ枯死木にカシノナガキクイムシが穿入しているのが発見されました。本州ではカシノナガキクイムシによるコナラ・ミズナラの集団枯死が各地で発生していますが、九州ではこれまでカシノナガキクイムシによる集団枯死は、シイ・カシ類だけにしか発生していませんでした。これらの集団枯死の直接の原因は、カシノナガキクイムシの体表などに付着して運搬されるRaffaelea quercivora という菌だと考えられています。カシノナガキクイムシが木に穿入するときに、この菌も樹幹内に持ち込まれます。菌に感染した樹幹部では通水機能が阻害されるので、大量のカシノナガキクイムシに穿入された木はやがて全体が乾燥・萎凋して枯死するのだと考えられています。霧島で発見されたミズナラの枯死にRaffaelea quercivora 菌が関与しているのか分かっていませんが、もしそうだとすれば、九州でもミズナラの集団枯死が拡大する危険があります。

写真−1  ホウオウボクを食害するホウオウボククチバ幼虫
(具志堅允一氏画像提供)

 沖縄県の沖縄本島の各地でホウオウボククチバPericyma cruegeri)によるホウオウボクの食葉被害が発生し、拡大傾向にあります(写真−1)。この虫はオーストラリア、ボルネオ、スマトラ、フィリピン、ベトナム、台湾などに分布します。国内では1986年に沖縄県石垣島のホウオウボクに大発生したのが初記録となっている侵入害虫です。すでに2000年には沖縄本島の那覇市や浦添市で局地的な大発生が観察されており、沖縄本島に定着してしまったようです。ホウオウボクはマダガスカル原産のマメ科の木で、沖縄県の各地に街路樹や公園樹として導入植栽されています。

 2001年に祖母傾山系でウエツキブナハムシによる大規模なブナ食葉被害が発生しましたが、今年の激害地は祖母山頂周辺に限られ、そのほかの地域における食害は軽微でした。祖母傾山系に近隣するブナ生育地として諸塚山と白岩岳・向坂山を調査しましたが、ウエツキブナハムシの食害は確認されませんでした。

 そのほかに、九州支所のメタセコイア並木の葉がクロトンアザミウマに食害されて変色・落葉しました(写真−2)。クロトンアザミウマは体長が約1.5oの小さな虫で世界各地に分布し、温室内の害虫として有名です。関東以南では野外でもさまざまな植物に加害し、特にサンゴジュ、カキ、ツツジ、ヤマモモなどを好みます。

 
 写真−2 メタセコイアを食害
するクロトンアザミウマ成虫
(吉田成章撮影)
 
 写真−3 キオビエダシャク成虫
(2003年2月13日開聞町で撮影)

 以下の虫害情報は、データベースに登録されたものではありませんが、会議資料や学会発表、新聞報道などから得たものです。1999年から2000年にかけて鹿児島県桜島でカシノナガキクイムシによるマテバシイの集団枯死が発生しましたが、これらの枯死木が上に述べたRaffaelea quercivora 菌に感染していたことが学会発表されました。2001年に鹿児島県本土の頴娃町・枕崎市で発見されたキオビエダシャクによるイヌマキ食害がさらに拡大して、指宿市・知覧町・開聞町・山川町・喜入町でも発生が確認されました(写真−3)。約50年前に同じ虫がこの地域で大発生した時には、100万本以上のイヌマキが枯死したことが記録されているので、地元では被害の激化と拡大を警戒しています。宮崎・鹿児島両県におけるヤシオオオサゾウムシによるフェニックスの枯死被害は、懸命の防除対策にもかかわらず拡大しています。そのほかに、沖縄県石垣島でクスアナアキゾウムシによるシキミ被害が発生しました。

 哺乳類による被害は1件報告されました。タイワンリスによる森林被害は長崎県福江島で報告されていました(九州の森と林業、47、59号)が、被害は壱岐島にも飛び火的拡大していることが分かりました。タイワンリスは国外から持ち込まれた「外来種」で、かつて東京都伊豆大島で大きな森林被害を引き起こしたことが知られています。生物多様性条約には「生態系、生息地もしくは種を脅かす外来種の導入を防止し、またはそのような外来種を制御しもしくは撲滅すること」(第8条h)と明記されており、これに該当する種では駆除を含む徹底した対策が必要です。また、被害地の拡大を防ぐためには野生化個体を出さないようにする「予防措置」が重要です。「動物の愛護および管理に関する法律」には、ペットや観光施設などの展示動物が野生化するのを防ぐ役割も期待されています。2002年には外来種問題を包括的に扱う『「外来種管理法(仮称)」の制定に向けての要望書』が日本生態学会で決議されています。

 

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